過去2回、Jim Albertが導入したボール・ストライクの得点価値の可視化方法を、それぞれリーグ全体、一部の投手に対して試してきました。今回は、野手個人に関して、ボール・ストライクの得点価値を計算してみます。
対象としては、wOBAの数値が比較的近く、かつ、タイプが違う打者ということで、Adrian Beltre、Chris Davis、Andrew McCutchenを選びました。
まず、これらの選手の打撃成績をざっくり掴むために、三振%、四球%、ISOをプロット。データはFangraphsから (注1)。
Beltre (wOBA 0.367) は三振の少なさが特長であり、四球はやや少なめで、長打力は平均的です。Davis (wOBA 0.368) はトップクラスの長打力と四球%ですが、三振の多さもトップクラス。McCutchen (wOBA 0.378) は比較的四球%が高く、長打力と三振の数は平均的というところです。McCutchenのwOBAが優秀な数値となっている要因としては、四球%の高さもありますが、ここでは示せていませんがBABIPが高め (0.336) なのが効いているようです。
では、まずBeltreから。
ストライクが増えることによる得点価値の低下、ボールが増えることによる得点価値の増加は全体的に低くなっています。追い込まれた状態でも平均的な打者の"0-0"と同程度の得点価値があり、これは三振しにくいことと関連がありそうです。"3-0"と"3-2"へと到る経路ではボールの価値が高めに出ている感じですが、少なくとも"3-0"に関してはおそらくサンプルが少ないことで極端な結果になっている可能性が高いかもしれません (頻度を記事の後の方で示しています)。
次にDavis。
ストライクによる 得点価値の低下が目立ちます。これはBeltreと比較するとはっきりしており、Davisは一つストライクを取られて"1-0"になると、Beltreの"0-2"と同じ程度まで低下します。平均と比較しても、"0-0"では平均に比べて0.05強ほど得点価値が高いのが、"0-2"や"1-2"で追い込まれると、平均的な打者とあまり変わらない所まで得点価値が低下しています。これは三振の多さと関係がありそうです。しかし、逆に言えば、あれだけ三振が多くても、長打力によって平均的な打者と同程度の成績が残せているとも言えるかもしれません。長打力は特定のカウントというより、どちらかと言えばある程度均一に全体的に効くと思われるので、おそらく全体的に上にシフトさせるような要因になっているという感じでしょうか。
最後にMcCutchen。これはやや厄介です。
基本的には、ストライクによる 得点価値の低下は平均と同じ (少し大きい?) ぐらいで、ボールによる得点価値の増加は全体的に低くなっています。結果として、3ボールの状態での得点価値は、"0-0"の値が平均より高い割に、それほど平均と変わらない結果となりました。ストライクによる得点価値はまあそんなもんかという感じですが、ボールに関してはMcCutchenの四球%はかなり高め (リーグ平均8%弱程度に対して12.3%) なので、安直に考えると得点価値は増加していてもよさそうな気がします。非故意四球の得点価値はだいたい0.3くらい (注2) なので、四球%が1.5倍なら3ボールの打席の得点価値を高める要因になりえるはずです。
3ボールの打席の得点価値が意外に伸びないことの説明としては、3ボールに達した打席数あたりの四球は実は増えていない、というのが考えられます。四球を増やす方法としては、3ボールの打席数あたりの四球を増やす、ということに加えて、全打席の中で3ボールの打席を経由した数を増やす、ということでも可能であり、後者の方法で四球が増えているのであれば、平均得点価値としては変わらないはずです。
各カウントを経由した回数を計算してみました。数値は全打席に対して各カウントを経由した割合を示しています。
McCutchenは3-0, 3-1, 3-2を経由した打席が、それぞれ平均よりも3割程度多くなっています。McCutchenの四球%は平均より50%程度高いことを考えると、だいたいそのうちの6割ぐらいは3ボールを経由した打席数が増えていることで説明できる可能性がありそうです。
先ほどの表を全体的に見ると、McCutchenは、3ボールに限らず、打者有利なカウントを経由していく比率が高いようです。カウント毎の得点価値の計算では、それぞれのカウントを通過した打席全てについて得点価値を平均する計算を行っているため、これは先行するカウントの得点価値を高める効果があるはずです。この結果はMcCutchenは各カウントごとの得点価値の比較ではそれほど優れていなくても、打者有利なルートを通る比率を上げることで、全体としての得点価値を生み出せる打者であることを示しています (得点価値の図で言うと、投球数0や1などで特に上にシフトする感じになってるはず)。
話を3ボールの得点価値に戻すと、非故意四球の得点価値はだいたい0.3と書きましたが、実はFangraphsの四球は非故意四球 + 故意四球なので、それも影響している可能性があります。故意四球の得点価値は0.16程度 (注3) で、正の値ではあるのですが、"3-0"の平均得点価値よりは低いので、打者個人の結果としては得点価値を増やす良い方法にはならないようです。非故意四球と故意四球の全体の比率がだいたい15:1に対して、McCutchenはだいたい15:2と非故意四球が多いようで、これも得点価値があまり増えない要因かもしれません。
という感じで今回は終わりです。ざっと見た程度ですが、同じくらいの得点力を持った打者でも、タイプによってカウント毎の得点価値や、全体的な得点価値を高める方法には、色々と個性があるようです。McCutchenは個人的にまだちょっと気になる感じなので、いずれ調べてみるかもしれません (注4)。
<参考>
Marchi and Albert, Analyzing Baseball Data with R, 2013, CRC press.
Albert, Visualizing Baseball, 2017, CRC press.
Tango, Lichtman, and Dolphin, The Book , 2007, Potomac Books.
http://retrosheet.org
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注1.
使ったデータへのリンク
https://www.fangraphs.com/leaders.aspx?pos=all&stats=bat&lg=all&qual=y&type=8&season=2016&month=0&season1=2013&ind=0&team=0&rost=0&age=0&filter=&players=0&sort=16,d
注2.
13-16で計算すると0.296。得点価値の計算はMarchi and Albertに従った。The Bookの数字だと0.323。The Bookは比較的に得点/試合が高めだった1999-2002の数字。
注3.
13-16で計算すると0.163。
注4.
よくあるカウント毎の成績みたいなものとの比較は一つの方向かなと思うのですが、この手のカウント毎の成績を得点価値と比較できるかというと多分なかなか難しい。大きな理由は、サンプルが対応していないことです。通常カウント毎の打撃成績というと、そこで打席が終わった場合の打席について計算をしますが、得点価値の計算では、あるカウントを経由した打席全て、で計算しており、同じカウントでもサンプルがかなり違う。
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