2018年3月18日日曜日

フライボールの変化が得点貢献に与える影響2 - おまけ FB%編

前回、角度の上昇やFB%の増加は、少なくとも全体的に見れば、それほどwOBAやwOBAcon (打球についてのwOBA) の上昇につながらないことを示しました。今回はなぜ、大きな改善に繋がらなかったのかについてざっくり調べます。ここではFangraphsやRetrosheetを用いて、FB%の上昇の影響について示します。

まず、本筋から外れますが、個人の通算成績的な部分で、FB (フライ) の多さがいろいろな打撃成績とどういう相関を持っているかを示します。下では、2010-2017年において、通算1000打席以上立った打者の打撃成績を利用して、様々な数値の間の相関係数を探索的に調べています。データはFangraphsから。
全部書いているときりがないので、とりあえず枠で囲ったFB% (FB_pct) に注目します (読めない場合はダウンロードして拡大してください)。打者の成績からみてポジティブな要素としては、長打力が高いこと (ISO) やGB%が低いこと (当たり前!) と密接な関係があるようです。一方、ネガティブな要素もあり、フィールド内の打球が安打になる確率であるBABIPの低下や、三振率 (K_pct) の上昇とも関連があるようです。BABIPに関してはFBはBABIPがGB (ゴロ) やLD (ライナー) よりも低いことが知られているので予想通りという感じです。wOBAとの関係を見ると、0.19と非常に弱いですが正の相関はあり、前向きな結果かもしれません。

下ではこの関係を詳しく見るためにFB%とwOBAの関係をプロットし、それらの選手のHR/FBを色で示しています。

関係性としては非常に弱いことが伺えます。また、右に行くほどwOBAが高い選手が多く、またHR/FB%も高いこと選手もwOBAが高い傾向がありそうです。このことはFB%とHR/FB%が高い選手は、特に得点産生に大きな影響を持っていた可能性を示しています。

上の結果は、これはあくまで選手間で通算のFB%の差とwOBAの差を見ているため、同じ個人がFB%を変化させた場合は異なる関係性をもっている可能性も考えられます。ここから、通算成績ではなく、2010年から2017年までの個人での成績変化の結果を示します。

下は様々な指標について、ある年の数値から、その前年の数値を引いた値を求め、その数値同士の相関を調べた結果です。両年度で450打数以上あった選手だけを対象にしています。
下から2番目の行にFB%変化 (FB_pct_diff, マゼンタの枠) と様々な指標の変化の相関が示されています。いきなり、wOBAの変化との関係を見る (右から6列目) と、相関係数はわずか0.006であり、ほぼ無相関といった結果になりました。この関係を詳しく見るために関係をプロットで示します。HR/FBが色で示されています。ここでのHR/FBは比較している2年間の数値を、打数で重み付けして平均を取っています。これはフライボールの得点貢献への影響1で、Retrosheetを使って示した結果とほぼ同じ事を行っています。

FB%の変化とwOBAの変化の間に明確な関係が見られないことが確認できます。ここではHR/FBが高い選手は全体に比較的ランダムに散らばっている様子が観察できます。これは、上で示した通算成績レベルの結果とは対照的であり、HR/FBが高い選手がFBを増やしても必ずしもwOBAは改善しなかったことを示してます。

FBの価値はGBより高いことは広く知られています。では、なぜFBの打球価値はGBよりも高いのに、FB%や角度を上げてもwOBAは改善しないのでしょうか?

上の相関行列にもどってwOBAの変化 (下から6行目, 緑の枠) との関係性が強いものを調べると、最も強い関係を示すのはBABIPの変化で相関係数は0.7です。FB%はBABIPの変化とはどちらかと言うと負の相関を示し、その絶対値は大きくありませんが-0.29となっています。さらにBABIPが相関するものを調べると、wOBAを除くとライナーの比率 (LD% = LD_pct) が比較的高い相関を示しています。ここで、下の図は打球別のBABIPの値を示しています。

BABIPでみるとFBはGBよりも低くなっています。また、対照的にLDでは他の打球よりもBABIPが非常に高いことがわかります。

単純な関係を無理やり考えると、
FB%上昇   →   LD%低下 →  BABIP低下 →wOBA低下 
というストーリーがありえるかもしれません。

というわけで個人でのFB%変化とLD%変化の間の関係を調べます。ここからはFangraphsではなくRetrosheetを使用します。これは、主にStatcast同様にポップフライを含む分類系なので比較が容易であること、個人の細かい打撃成績の集計が容易であることが理由です (注1)。
そこそこ相関がありそうです (R = -0.47, p < 2.2e-16)。回帰直線をそのまま信じると、FBを10%増えた場合、平均的にはLDが4%程度低下したようです。ここではBABIPの変化を色で示していますが、全体的に回帰直線の上側では、同じ程度のFB%の選手に比べてBABIPが高くなっているようです。これはLDを増やすことがBABIPを上昇する上で有効なことが示されているといえるでしょう。

比較のためGBで同じように示します。

LD%よりも強いFB%との関係が確認できます (R = -0.56, p < 2.2e-16)。回帰直線によるとFBを10%増やすと、平均的にはGBが6%程度低下しています。LDが4%低下したので、合計ではほぼ10%になりました 。また、BABIPが高い点は回帰直線の下側に多いのは、FB%の影響を揃えているので、GB%を減らすとLD%が増える可能性が高いのが原因だと思われます。既に10%の変化がLDの低下とGBの低下でほぼ説明できたのでPUは変化していないことが予想されます。確認しましょう。
FB%差とPU%差には相関は無さそうです。

ここまでで、FBを増やした時にLD, GBの頻度が平均的にどの程度変化するかが見積もれました。各打球の平均的な価値を使えば、FBを増やした場合にこれらの平均的な価値が変動しないという前提で、FBが増えた時の打球の価値の変化を大雑把に定量することができます。

平均的な打者であり、打球100の選手を考えてみます。
この選手の打球の構成は、2017年のだいたいの打球比率から、
GB46, FB22, LD 25, PU7
とします。

下はRetrosheetから計算した、各年度での打球別wOBAです。

これにそれぞれの2017年の打球の平均的なwOBAをかけて合計し、打球の数で割ると以下になります。
(0.456 * 22 + 0.226 * 46 + 0.66 * 25  + 0.022 * 7) /100 = 0.37082
これはこの選手の (そして概ねMLB全体の平均の)、wOBAconです。

FBの5%の増加が全てGBと入れ替わった場合のwOBAは、
(0.456 * (22 + 5) + 0.226 * (46 -5) + 0.66 * 25  + 0.022 * 7) /100 = 0.38232
ですが、
回帰分析の結果を元に5%の低下をGBとLDに大体3:2で配分すると、
(0.456 * (22 + 5) + 0.226 * (46 -3) + 0.66 * (25 - 2)  + 0.022 * 7) /100 = 0.37364
となります。
全てGBがFBに置き換わるのであればwOBAconは0.012弱増加しましたが、LDの低下を考慮にいれることで、増加は0.003まで低下し、価値の上昇のかなりの部分が失われた事になります。FB%の上昇でwOBAが伸び悩んだ要因として、LD%の低下は重要な要素であった可能性がありそうです。

年度間では打球の価値の違いがありますが、この違いがどれほど影響するかをみるために、同じ計算を2016での価値で行います。
平均的打者では、
(0.368 * 22 + 0.226 * 46 + 0.714 * 25  + 0.022 * 7) /100 = 0.36496
です。
ここから、上と同じ比率で5%FBを上げると、
(0.368 * (22 + 5) + 0.226 * (46 -3) + 0.714 * (25 - 2)  + 0.022 * 7) /100 = 0.3623
wOBAconはむしろ低下してしまいました。この結果は2016年ではFBのwOBAが2017より低いこと、またLDのwOBAが高いことによって起きたと考えられ、年度間で実際に見られる程度の打球の価値の変動が、FBに関するアプローチの変化の効果をそれなりに左右する可能性を示しています。

選手個人の打球価値も影響があるはずです。仮にFBのwOBAが0.6の選手を考えてみます。Statcast (15-17) で計算するとFBのwOBAはStantonで0.75強、Troutで0.55程度なので、0.6はかなりのエリートです。
この選手のwOBAconは、
(0.6 * 22 + 0.226 * 46 + 0.66 * 25  + 0.022 * 7) /100 = 0.4025
FBを5%増やすと、
(0.6 * (22 + 5) + 0.226 * (46 -3) + 0.66 * (25 - 2)  + 0.022 * 7) /100 = 0.41252
打球のwOBA 0.413はなかなか高い数値です。FBを5%上げることによる増加も0.003から0.01まで増加しました。当然、FBの価値が高い選手のほうがFB%を上げた時にwOBAconを上昇させることができ、高いFB wOBAを持つ選手ならば、FB%をを5%増やすとそれなりに効果がありそうです。しかし、FB wOBAを0.6に上げること自体の効果が
 0.4025 - 0.37082 ≒ 0.03
 なので、FB wOBAが上がることの影響の大きさは、平均的なFB%比率であっても非常に大きく、FB%を上げることによる追加的なwOBAの改善はそれに比べれば、あまり大きくはないようです。

ここまでは打球の話をしてきましたが、得点への影響全体の評価を考えると、三振、四球の頻度の変化を評価しなければなりません。

下は角度の変化とK%の変化の関係を示しています。

相関は非常に弱く (R = 0.116, p = 0.0009)、傾きをそのまま信じても、FB%が5%上昇しても0.4%弱に過ぎず、250打席に1回、打席の価値が0になる程度の影響にとどまるようです。

一応これも、線形回帰の傾きから影響を概算してみます。
平均的な、1打席でwOBA0.33を稼ぐ選手の100打席を考えます。
この選手のwOBAは
0.33 * 100 / 100 = 0.33
となります。ここで1%が三振 (wOBA = 0)になると、
0.33 * (250 - 1)  / 250 = 0.32868
0.00132の低下です。
打球価値の概算で見られた影響の大きさと比較してみます。
打球は平均的には、打席数のだいたい2/3程度だと思われ、2017の価値では打球100で0.003程度の改善があったので、打席250では
0.003  * (250 / 100) * 2/3 = 0.005
となり、三振の増加は打球価値の増加の1/3弱を失わせる程度の影響に留まっていたようです (注2)。

次に、角度変化とBB%変化の関係を示します。
直線はわずかながら傾いていますが、ほぼ無相関です (R = 0.007, p = 0.046)。とりあえず無視してしまいましょう。

これらの見積もりではFB%の比率が変わっても、打球の価値が一定であるという仮定を置いています。この妥当性を見るため、FB%の変化と各打球wOBAの変化を調べました。

面白いことにFB%の上昇は、FBの価値の上昇とわずかに正の相関を示しています (R = 0.15, p = 4.444e-15)。

価値が上昇した理由としてはいくつかの可能性が考えられます。例えば、
  1. FBを増やすと打球価値が上がる、あるいはFBを減らすと打球価値が下がる可能性
  2. FBの価値が上がったり、下がったりすると打者はそれに応じてFBを増減する傾向がある
これらの可能性を区別するのは困難だと思いますが、個人的には、後者は少なくとも関与していると考えるのが自然だと思います。仮にこの推測が正しければ、打者は年間単位レベルでの自らの打球価値の変化に応じて、検出可能なレベルでこれまでもアプローチを調整していたのかもしれません。

まとめると、FB%が増えたからといって得点貢献があまり増えなかった理由としては、
  1. LD%の低下による打球の質の低下
  2. 三振の増加
がありそうでした。効果の大きさとしてはLDの減少が主要であった可能性が高そうです。

しかし、実のところ、初めの方で示したように、FB%だけでなく他の意味がありそうな打撃関連の指標の多く (Pull%, Z-Contact%, O-Swing%) の変動は単年単位ではwOBAとほとんど相関が無いことがわかります (注3)。上で示した相関行列を再掲します。

単年程度のサンプルサイズではwOBAの変動は、BABIPの変動とかなり大きい相関を示しています (R = 0.7)。BABIPのばらつきは確率的に期待される程度でも十分に影響が大きいため、こうなってしまうわけですが、それ自体は避けようがない部分で嘆いていても仕方が無いとも思います (BABIPのばらつきの影響については角度の方の記事でもう少し色々と書いています)。個々の効果が少なくとも、プレイヤー本人に合ったものを中心に、あまり効果はないかもしれないが色々な部分で少しでも打撃を改善することを目指していく、というのがMLBのレギュラークラスの打者の大半にとっては現実的な方向性のような気がします。そういう意味では、FBの増加も一部の打者にとっては試みるべきアプローチである可能性は十分にあると思います。

ここではFB%をつかっているのでNPBでも同じようなことを調べることは可能です。個人的にはNPBでも大差はないと推測していますが、今のところ特に調べてはいないです。

<参考>
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注1.
具体的には、後で示したFB%が変化した時の各打球タイプのwOBAの変化の集計がしたかった。

注2.
Statcastの打球角度を調べた結果に比べると、三振が及ぼす影響が小さくなっているようです。16-17年だけで調べると、FB増加に対する三振増加は、10-17の結果の1.5倍ぐらいあったようなので、部分的なそれが効いているようですが、これでもまだ影響が小さいかもしれないです。もうちょっと真面目に比較しないとよくわからないですが、正直なところ面倒。

注3.
ただし、長打力にある程度直接的に関連しそうなもの (HR/FB, Hard%) の変動はそれなりにwOBAと相関があります。他の要素に極端に悪影響が出ないような形で、長打力をつけられるならそれに越したことではなく、FB%を上げることの効果が長打力自体の効果よりはかなり劣るというのは多分間違いないように思います。

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